◆中耳に水が貯まる病気◆

この病気は、図に示したように中耳腔に水が貯まる病気です。この中耳腔に貯まっている液体の性質は、水のようにさらさらしたものから、みず飴のように粘っこいものまであります。この中耳炎は5−6歳頃の子供や老人に多いのですが、成人にも時々見られます。そして、最近この滲出性中耳炎は増えており、治療も長引くことがあります。今回はこの病気について少し詳しく話したいと思います。


正常の鼓膜です(右側)


鼓膜下方に薄茶色の滲出液が溜まっているのが透けて見えます(右鼓膜)

 ◆耳管の働き◆

この病気の原因は、耳管という中耳腔から鼻の奥に通じている管の働きが悪くなるためです。耳管はふだん閉じていますが、つばを飲んだり、あくびをするときに開き、外界と中耳の圧を調節したり、中耳の換気を行い、耳の中に新鮮な空気が入るようにして、鼓膜の動きを良くする働きをしています。
たとえば、高いビルのエレベーターに乗ったり、山から急におりてくる時、耳がガーンとしてふたをされたようになったり、耳が痛くなったり、遠くなったりします。これは外界の気圧に中耳腔内の気圧がついていけなくなり、外界と中耳腔の気圧がアンバランスになって、鼓膜の動きが悪くなるためです。こういう時、つばを飲んだりすると耳管が働いて気圧の調節を行い、いつの間にか症状はとれてしまいます。

このような働きを持つ耳管の機能がうまくいかない時、滲出性中耳炎がおきてしまいます。

 ◆子供の滲出性中耳炎は気が付かない◆

滲出性中耳炎の症状は、耳がふさがっているような感じ(耳閉感)と難聴がほとんどで、普通の中耳炎のようなみみだれや耳の痛みがありません。子供では、このような症状をなにも訴えないことが多く、家族が難聴を疑って耳鼻科を受診し初めて診断されたり、学校検診で偶然見つかることもしばしばあります。軽い難聴では子供は何も訴えないので注意が必要です。

 ◆滲出性中耳炎の原因は?◆

先ほどお話ししましたが、耳管の働きが悪くなるとこの病気にかかってしまうと考えられています。原因不明で耳管の働きが悪くなることもあるし、ある程度原因のはっきりしていることもあります。原因のはっきりしている中には、山からおりた時、飛行機に乗ったあと、風邪をひいたあと、急性中耳炎のあとなどがあげられます。咽頭扁桃(アデノイド)、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、アレルギーとの関係も、取り沙汰されています。

 ◆放置するとどうなる (1)◆

自然治癒があり得る病気なので、放置していても何時の間にか治ってしまうこともあります。しかしある数の子供は、これからお話しするような色々な合併症や後遺症をのこすので注意が必要です。
この滲出性中耳炎があると、急性中耳炎を繰り返し易くなります。逆に言うと急性中耳炎を繰り返す子供のほとんどは、よく調べてみると滲出性中耳炎を持っています。滲出性中耳炎の治療をきちんとしないといつまでも繰り返します。病気の説明をきちんと受けていなかったり、理解していなかったりすると、中耳炎を繰り返すことに疑問や不安、不信感を抱き耳鼻科医をあちこち変えるご両親が時々いますが、反省したいと思います。

 ◆放置するとどうなるか (2)◆

子供の頃滲出性中耳炎の治療を怠ると、1部の子供は、癒着性中耳炎、コレステリン肉芽腫、真珠腫性中耳炎などの病気に移行していってしまいます。私の経験では、病気の勢いが強くて、治療していても不幸なことにこのような病気に移行してしまった子供もいます。 癒着性中耳炎は聞こえが悪くなり非可逆性(一度癒着をおこすと元に戻らない)の疾患なので、手術が必要となります。コレステリン肉芽腫は中耳液の貯留とともに、中耳内に出血を起こし血液由来の成分が結晶化したものが貯まる病気です。とても治りにくい疾患で時に手術も必要です。真珠腫性中耳炎は骨をとかして進む恐ろしい病気で、聞こえが悪くなるだけではなく、進行するとめまいがしたり、頭痛がしたり、ついには顔面神経や脳が侵され命とりにもなりかねない病気ですぐに手術が必要となります。

 ◆治療は?◆

耳管の通気をします。鼻の方から耳へ空気をとおして耳の中の空気の換気をおこないます。この治療で改善が認められない時、中耳にたくさんの滲出液が貯まっている時、聞こえが落ちている時などは、鼓膜切開をします。切開をして貯まっている液を吸引、除去し換気ができやすいようにします。切開をしても鼓膜はすぐに閉じてしまいます。そこで、繰り返し切開を必要な人に対しては、チューブ留置術を行います。切開孔よりシリコンの小管を挿入して切開孔が閉じないようにします。チューブを入れる時期や挿入期間は病気の状態によって異なります。すぐにチューブを入れたがる耳鼻科医もいるようですが、常識的には、3−6ヶ月の間の治療で全くよくならない時、2−3ヶ月の間に何回も鼓膜切開が必要な時、先程話した重大な合併症に進行しそうな時に中耳チューブ留置術を行います。


鼓膜換気チューブを入れた鼓膜

 ◆原因となる病気を治す◆

蓄膿症(副鼻腔炎)があると、耳管炎や中耳炎になりやすいので充分に治療して治すことが大切です。必要によってアデノイドの切除術をします。
滲出性中耳炎に関する文章は、日本耳鼻咽喉科学会の『最近増えている耳の病気』を改変させて頂きました。

(内田耳鼻咽喉科・内田實)
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